乃南 アサ

駆け込み交番

駆けこみ交番 (新潮文庫 (の-9-35))

著者:乃南 アサ

刊行:2005年3月

評価:★★★★★☆☆☆☆☆ 5点

ストーリー:新米巡査 高木聖大の毎日を描いた連作短編集。

「とどろきセブン」。聖大が勤務する交番は東京二十三区内にあるものの住宅街が広がるのんびりした地域。こんなところでは派手な事件なんて起こらない。平和すぎる。そんな聖大の交番には、時々不眠症の御婆ちゃん、文恵さんが遊びに来る。未亡人の文恵さんは友人の御爺ちゃん御婆ちゃんたちと老人サークルを結成し、自分達の趣味や特技を生かして活動している、生き生きとした人だ。偶然に指名手配犯を逮捕した聖大は、自分たちのサークルを「ととどきセブン」と呼ぶ文恵さんたちに気に入られ、街の不審情報を教えてもらえるようになった。単なるご機嫌伺いのようなメールが何度か携帯に入るようになったと思ったら、「気になる家」というタイトルの何時もと少し様子の違うメールが届いた。

「サイコロ」。とどろきセブンのメンバーの一人、元大工の棟梁が聖大に話があると言う。近所の家の幼い二人兄弟が気になるらしい。母親の「ネグレクト」、子供を完全に無視するという一種の児童虐待だ。でも事件になるまでは警察は動けない。ちょうど同じ頃、管内で所在がわからなくなっている二名の児童がいるとの情報が入った。

「人生の放課後」。「ちょっと出掛けてくる」と言って出て行ったまま、神谷文恵の夫は突然死んでしまった。「生前、ご主人には大変お世話になった」と大工の棟梁、植木屋の親方、電気屋の主人が訪ねてきて、その後も何かと文恵の力になってくれた。主人と死に別れた文恵の幼馴染のナヲも、文恵のマンションの一室で暮らし始めた。彼女達は、弟子と内縁の妻に裏切られてお店を乗っ取られたシェフのため、裏切り者に同じ思いをさせようと決意する。そうして不思議なグループが出来上がった。世の中には理不尽なことが山ほどある。そういう問題を自分達で片付けるというのはどうだろう。

「ワンワン詐欺」。文恵さんが御婆さんをつれて交番にやってきた。飼い犬がいなくなったと思ったら「ペット探偵」のチラシがポストに入っていたらしい。「誘拐だ」と騒ぐ御婆ちゃん。でも、犬じゃ「誘拐」ではなく「遺失物」としか扱えないしイマイチ本気にもなれないし。翌日、聖大は定年間近の老刑事、元山に呼び出された。管内で多発するペットの行方不明に事件性を感じた元山は、最後のヤマのパートナーとして聖大を指名した。

感想:交番勤務のお巡りさんが主人公とは言え警察が舞台となっていながら、なんとものんびりとしたお話だった。でも、警察という一般市民からすれば非日常と思える世界でも、実際は案外こんなものなのかもしれない。そして、そこで働いている人間の職業意識というものも。

幼い頃、警察官はもちろん学校の先生やお医者さんというような人達は物凄い人格者で、間違ったことなんて言わないし喧嘩もしない、弱い人達を助けてくれるそれはそれは立派な人達だと思っていた。だから彼らが多少偉そうでも、それはしょうがないことだと思っていた。それが成長していくにつれて、どうもそうでないということに気付いていった。彼等はスーパーマンじゃない。私達と同じ人間だということが分かってきた。弱いところも汚れたところもあって当然。ただ、例えそうであっても警察官や先生や医者を志す限りは、多少普通の人よりも高い使命感や正義感を持ってもらいたいものだ。

主人公の聖大も、そんな弱い人間の一人。普通の若者だ。ただ、少しずつ成長しているように感じる。スーパーマンになることはないけれど、時々愚痴をこぼす弱い人間だけど、周りの人達に教えられたり励まされたりしながら、毎日の仕事に取り組んでいる。みんながこんな思いを持って仕事に取り組むことができれば、世の中ってもっと良い方向に向いていくと思う。責任転換する訳ではないけれど、それには若い人達を導くベテランやお年寄り達の果たすべき役割は大きい。ニュースとかではロクでもない大人達が起こすくだらない事ばかりが目立ち過ぎて、とても若者達を導いているとは思えない。これじゃ世の中が良くなる訳が無い。ただ、周りの大人達がくだらなく見えたとしても、よく探せばきっと自分を導いてくれるような人物に出合えるはずだ。そういう人に出会えた若者はラッキーだ。私もいつかそんな人に出会えるだろうか。と言うか、既に私がそういう人物に成らなければいけない年齢かもしれない。自分自身に自覚が無いところが問題だ。でも世の中を良くするために少しは役に立ちたいなっていうのは何時も思っている。

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