床下仙人
著者:原 宏一
刊行:1999年9月
評価:★★★★★☆☆☆☆☆ 5点
ストーリー:現在社会が抱える矛盾や問題を極端かつユーモラスに描いた短編集。
「床下仙人」。仕事に追われ家庭を顧みることができない俺。だけどそれも家族のためだと思っていた。ある日、妻が俺に言った。「この家には何かいる」。妻の戯言だと相手にしなかった。しばらくして夜中に帰宅した俺は、仙人のような風体の男と遭遇した。事態が良く分からないまま仕事にかまけて遣り過ごしていたら、いつの間にか妻と子がその男と楽しそうに一家団欒のひと時を過ごすようになっていた。
「てんぷら社員」。隣の席の田所さんは五十代にして平社員。一週間前本社に転勤してきた。パソコンもろくに使えないスダレ頭の田所さんは、暫くすると係長に出世した。部長や専務が田所さんに頭を下げていたという噂話も聞こえてくる。そんなある日、田所さんから「お願いがあるのですが」とメールが届いた。専務を失脚させる積もりなので、それを俺に見ていて欲しいそうだ。
「戦争管理組合」。長い海外出張から帰ってきた俺は、マンションのエントランスで女に猟銃を突きつけられた。俺が知らない間に組合総会で「硬直化した男社会に宣戦布告した」らしい。女性だけが対象のリストラに怒った女達が、男主導社会から女主導社会に完全転換させるため、男社会を徹底的に崩壊させる戦いだ。会社の不正暴露を武器に戦いを挑む彼女たちだが、男主導の世の中にはまったく相手にされていなかった。
「派遣社長」。「一ヶ月無料お試しキャンペーン」という営業マンのセリフに乗せられて「派遣社員」ならぬ「派遣社長」の契約をした。やってきたのは仕事のスタイルも考え方も180°違う、居酒屋の店長にしか見えない小太りオヤジ。これまでの遣り方を全否定して、無理遣り業界の常識では考えられない改革を進めて行く。社員はどんどん辞めていくが、派遣社員がいれば仕事はまわっていく。業績も向上していく。そして一ヶ月が過ぎて、入れ替わりで全くタイプの異なる次の派遣社長が遣って来た。
「シューシャイン・ギャング」。会社にも家族からもリストラされたシマザキが信号待ちをしていると、全く知らない娘が足元にしゃがみこんで、いきなり靴を磨きだした。磨き終えた娘は千円を要求。家出した娘が自分ではじめたビジネスらしい。ボディーガードとして一緒にやろうと誘われるシマザキ。家族に見捨てられたオヤジと家族を見捨てたムスメ。一緒に仕事をして一緒に寝泊りしているうちに、二人は互いに本当の親子のような気がしてきた。
感想:世の中にある色んな「なんか変だな」って感じていることが、誰にも改められることなく、少しずつ少しずつ「変だな」が進んで行って、気付かないうちに「ものすごく変」になってしまった。そんな物語だった。「ありえねー」とは思うけど、「放っておくと行き着く先は確かにこんな場所かも」と思わせられる。
現実の世界には「なんか変」って感じることが沢山ある。俺だけでなく皆もそう感じているはずだ。でもその「なんか変」を進んで変えて行こうとは思わない。とりあえず日々の生活には支障がないし、目の前の事をこなすので忙しいからだ。でも、それって本当に正しい姿からはどんどん離れていっているのかも知れない。気付いた時には遅すぎたってことになってしまうかも知れない。きっと皆、なんとなくそう思っているだろうけど、やっぱり今の俺の周りにある「なんか変」はそのままになっている。些細過ぎて何とかしようというパワーも沸いてこない、逆に大きすぎて一人の力ではどうしようもない。理由は色々あるけれど、ほっとくと何時かこの小説みたいにとんでも無い事になるのかな。
目の付けどころが面白く結構楽しく読めた。でも、なんとなく小説で読むよりも舞台で見るほうが面白いかもと思った。
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