分岐点
著者:古処 誠二
刊行:2003年5月
評点:★★★★★★★☆☆☆ 7点
ストーリー:太平洋戦争末期の昭和20年夏、中学生の対馬智は本土決戦に備えるための陣地構築に動員された。作業のための道具も不足し、満足な食事も出来ない。劣悪な環境下にあっても「お国のため」に労働させられ続けるが、軍の規律は乱れ世の中には隠しようの無い厭戦感が漂っていた。だが智の級友 成瀬憲之だけは何の迷いも無く鬼畜米英に対する敵愾心に燃えていた。大東亜戦争完逐を信じて疑わない彼は、智ら級友を叱責し続ける。そんな成瀬が、一人の下仕官を殺した。誰よりも与えられた任務に邁進し、ふがいない級友をなじり続けた少年は、なぜ皇土を守る軍人に刃を向けたのか。
感想:今まで色んな確度、色んな立場から戦争を描写した小説や映画を見てきたが、この作品は私が今まで触れたことの無い切り口で戦争を描いていた。
成瀬も、もちろん智も、抱く価値観こそ異なるが誰も間違っていない。片桐少尉も、殺された下仕官でさえ地獄のようなあの時代においては、平和な今の世を当然のように生きる私には責めることが出来ない。誰も間違っていないのに、なぜ成瀬は下仕官を殺し智を憎み、なぜ智は下仕官に殺意を抱き成瀬と包丁を奪い合い、なぜ下仕官は片桐少尉を侮蔑しながら逃亡を企てたのか。それは時代が狂っていたからなのか。
成瀬は真っ直ぐな少年だった。真っ直ぐすぎたのだ。だから教えられたものを何の疑いも無く守ろうとしたのか。教育は如何に大切で、何て恐ろしいものかと思う。正しいと信じ続けていたものが、時代の「分岐点」において急激に正しいものでなくなってしまう。終戦によって価値観が180度変ってしまう時、一番の犠牲者はそれまで皇国民の鏡であった成瀬に間違いない。その後の成瀬がどうなったのかは解らないが、真っ直ぐすぎる彼は価値観を変えることが出来なかったのではないか。だからといって彼が人間として欠陥がある訳ではない。智に宛てた手紙の最後に、それが現れている。きっと時代が違えば立派な大人に成長したことだろう。でも、真っ直ぐな彼は、時代や教育を言い訳にされることすら拒むような気がする。
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