佐藤 多佳子

神様がくれた指

神様がくれた指 (新潮文庫) 

著者:佐藤 多佳子

刊行:2000年9月

評価:★★★★★☆☆☆☆☆ 5点

ストーリー:スリ師の辻牧夫は、出所したその日に電車で少年少女のスリグループに遭遇した。不用意に近付いた牧夫は、グループの一人に右腕を怪我させられてしまう。腕を押さえて苦しむ牧夫を助けたギャンブル狂いのタロット占い師 昼間薫は中世的な魅力を持つ男だった。薫との共同生活を送りながらスリグループを追いかける牧夫。やがて一人の少年が浮かびあがる。そして薫のもとには、うつむいてばかりいる少女が通ってくるようになった。薫はその少女を示すタロットに不吉な未来を感じていた。

感想:私はスリに会ったことがないけど、こんなに見事にスラれてしまうものなのだろうか。読んでいて電車に乗るのがちょっと怖くなった。スリであるということ以外、牧夫は非常に好青年だった。そして昔堅気の職人的技術とこだわりを持ってスッている。ゲーム感覚でスる少年達とは違う。スリは悪いことなのに、何故か牧夫のほうが「正しい」と思ってしまう。

例え悪いことだとしても自分を認めてくれる人間にすがって命令されるままに行動する少年達。今時の少年っぽい。そんなつながりを仲間と感じている彼等が愚かに見えてしまうのは私が少年でなくなったからだろうか。彼らには「今」しか見えていない。彼らの「ゴール」を感じることができない。導く大人達の所為なのか。同じ犯罪である「スリ」でも随分違ってしまうものだ。

少し残念なのは、何となく読み終わってしまったこと。全体を通してそこそこ面白く読めたけど、何か引っ掛かってくるものが無かった。最後もそこそこ感慨深いけれど、何となく物足りなさを感じてしまう。何かが足りないような感じがしてしまう。例えば、追い詰められていた少女が最後には救われたのかどうかとか。それを想像することが出来ないのは、足りない何かが私の想像力だからだろうか。

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しゃべれども しゃべれども

しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫) 

著者:佐藤 多佳子

刊行:1997年8月

評点:★★★★★☆☆☆☆☆ 5点

ストーリー:吃音コンプレックスが原因でテニスのコーチをあきらめた男。素直になれずに憎まれ口しか言えない徹底的に無愛想な女。関西弁がきっかけでクラスのいじめにあってもいこじになって戦おうとする生意気な小学生。普段は悪態ばかりなのにいざとなると何もしゃべれなくなる元プロ野球選手の解説者。そんな彼らがなぜか落語を習うことに。でも、その落語を教える今昔亭三つ葉も仕事や恋に悩んでいた。言いたいことが素直に言えない、言いたいことが伝わらない、自分が上手く表現できない。だから周囲とぶつかってしまう。そんな彼らが落語を学ぶことで何かの解決になるのか、それは誰にも解らなかった。

感想:言いたいことが言えない、伝わらないもどかしさ。多くの人が何度も経験することだと思う。もちろん私も。時には言おう、伝えようとする努力すらやめてしまうこともある。この物語の生徒達も、言おう、伝えようとすることに疲れてしまっていた気がする。でもそれを良いこととして納得は出来ていないのだろう。だから落語を習おうとした。

落語が出来れば解決できるなんて根拠はどこにも無い。何かのきっかけが欲しかった。そしてそこに同じような悩みを持つ者がいた。素直になれないけれど、それでも落語を習いに通い続ける彼らの気持ちは良く分かる。

思ったことがそのまま口から出てくるような人でも、同じような悩みがあるのだろう。その代表なのが今昔亭三つ葉。短気でしかもしゃべることが商売のこの男もまた悩んでいる。言いたいことを伝えるというのはとても難しい。仕事でもプライベートでも。上手く言えたとしても、誤解されることがある。人と人が心を通わすというのは奇跡に近いことなのかも知れない。だから心が通じあうことを素晴らしいと感じ、そういう相手を求めるのだろうか。

しゃべれども しゃべれども 特別版 (初回限定生産2枚組)

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