沢木 耕太郎

無名

無名 (幻冬舎文庫) 

著者:沢木 耕太郎

刊行:2003年9月

評点:エッセイのため対象外

ストーリー:本と酒だけを楽しみとして生きて来た父。穏やかで物事にこだわらず、私は父に怒られた記憶が無い。多くを望むこともない父は、生きる力の弱い人だった。そんな父が脳出血で倒れた。幸い一命は取り留めたが、時々意識が混濁するようになった。そして入院中に肺炎を併発し、どんどん体力が落ちていく父。もう長くは生きられないであろう父のため在宅介護を決めた。2人の姉と母と交代で父を看護しながら、私は父との記憶を辿り、その無名の人生の軌跡を巡っていった。

感想:小説と思って読み始めたけれど、エッセイだった。私は殆どエッセイを読まないので、エッセイとしての本作の出来がどうなのか良く分からないが、共感できたかどうかを基準とするなら良い本だったと思う。私の父も既に他界しているからだ。

私も病気で父を亡くしており、また、作者のように病院で付き添って添い寝もした。作者と違って私はまだかなり若かったが、看病のおかげで普通に暮らしていたのでは考えられないほど長い時間を父と共有した。その間、色んな話をしたのも今となっては良い経験だったと思う。私の父はそれ程読書家ではなかったが、知識のレベルは高かったと思う。時代と育った環境が違えば、社会でそれなりの地位を得たのではないか。ただ、作中の父と同じように、それ程強い欲は持っていなかったように感じる。私の父の死もまた「無名」だった。

「死」というものは厳粛なものだ。でも、死んだ人が自分に近ければ近いほど、時間が経たないとその「厳粛」を感じることが出来ないのではないか。私も父を亡くした直後は深い悲しみと、看病の疲れと、これからの漠然とした不安と、通夜や葬儀の慌しさで、父の死を厳粛に受け止めることなど出来なかった。ただ私が若かっただけかも知れないが。

時間が経って、時々父のことを思い出す。無名ではあったが、立派な人物だったと思う。こんなことは父が生きていれば感じなかっただろう。時間が経って私も大人になり、やっと父の死を厳粛に受け止められるようになったと思う。

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