歌野 晶午

死体を買う男

死体を買う男 (講談社文庫) 

著者:歌野 晶午

刊行:1995年2月

評価:★★★★★★★☆☆☆ 7点

ストーリー:ある小説雑誌に作者名の無い小説が掲載された。「白骨鬼」。この連載第1回を読んだ後、かつて人気推理小説家だった細身辰時はうなり声をあげた。女装した美少年が絶壁から身を投げ、その死体があがらないまま自殺として片付けられるストーリー。江戸川乱歩調の文体で書かれたこの小説の作者は誰なのか? 何を切っ掛けにこの小説を書いたのか? それを確かめるため細身は「白骨鬼」の作者 西崎和哉と会い、ある決心を固めた。この「白骨鬼」は、私の名で世に出されなければならない・・・。

感想:「葉桜の季節に君を想うということ」でも感じましたが、歌野さんの作品は全体の構成が素晴らしい。とてもよく練られていると想います。小説の中の世界(作中作)と現実の世界(作品自体)が平行して進み、最後にこの2つのストーリーを密接に関連させる。そして謎ときを提示するのですが、解かれた謎以上の秘密がそこには隠されている。全ての真相が明らかになったあともう一度最初にある「自序」を読むと、読み出しとはまったく異なる意味を感じることができます。

なぜ細身辰時は西崎和哉の作品を自分のものにしようとしたのか? 西崎自身も自分でその答えを導き出します。普通の作者ならそこで終わりでしょうが歌野さんは違います。西崎が辿り着いた答えは50点でしかありません。基本正解なのですが、本当に大切なパーツが足りません。それは何かと言うと・・・ここでは言えません。

作中作の「白骨鬼」だけでも結構楽しめるので、本作は「一粒で二度おいしい」作品です。まだ映像化されてないようですが、映画やドラマになってもかなり面白いと思います。ただミステリー小説というものは例えどんなに感動したとしても、一度完読してしまうともう一度読み返す気にはなれません。トリックや謎解きが全て解っているから当然なのですが、こんなに面白い作品なのに一度しか楽しめないのはとても残念です。それがミステリー小説の宿命なのですが。一度しか読めないジャンルであるからこそ、クオリティの高い作品に出会いたいという思いは特に高くなります。本作はその思いを満たしてくれました。

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世界の終わり、あるいは始まり

世界の終わり、あるいは始まり (角川文庫)

著者:歌野 晶午

刊行:2002年2月

評価:★★★★★☆☆☆☆☆ 5点

ストーリー:私の近所で小学生の誘拐事件が発生した。誘拐されたのは息子の友達。不幸にもその小学生は死体で発見された。その後東京近郊で同じような誘拐事件が続けて発生する。でも、我が家は平和だ。驚いたり哀れんだりする一方で、自分の子でなくて良かったと思っている。自分とは関係の無い世界の出来事だったのだ。そう、息子の部屋から被害者の父親の名刺を見付けてしまうまでは・・・

感想:これはなかなか評価が難しい作品。基本的に面白かったのですが、ラストがどうしても納得できません。この父親はとっても前向きな気持ちになって物語が終っていますが、本当にそれで良いのでしょうか?

「息子が連続誘拐殺人犯では」との「妄想」に囚われる父親。かなり想像力が豊かな方のようで、その妄想はどんどん膨らんで、ずんずんエスカレートしていきます。最初の内は妄想と気付かずにドキドキしながら読み進めるのですが、妄想、妄想の連続で途中から「どうせこれも妄想」って思いながら読んでしまいました。あまりに妄想が激しいため「息子が犯人」って思い込む証拠の数々でさえ「彼の妄想?」って思ってしまいます。

ただ、「息子が犯人かも」って怯え、動かぬ証拠を突きつけられても、本人に真相を正すことが出来なかったり、被害者への償いよりも自身のそして家族の今後ばかりを憂いたり、そういう人間の嫌らしさにはドキッとさせられました。もし自分の身にこの父親と同じ不幸がふりかかったら、私も自分のこれからのことばかりを考えてしまうのではないでしょうか。自分の息子が犯した罪でありながら、「何故俺がこんな目に」なんて、被害者から見たら理不尽極まりない思いに囚われるかもしれません。そしてそんな自分と世間に対してとらなければならない道徳的な態度とのギャップに悩むでしょう。

どこまでが父親の妄想かによって判断が変りますが、恐らく息子が犯人であることに間違いないでしょう。で、あるならエンディングでの父親のさわやか過ぎるくらいの前向きな感情が、どうしてもしっくり来ません。「息子と一緒に罪を償っていく」と決めたのだとしても、それは同時に被害者達への謝罪の気持ちも含まれているはず。だったらあんなお気楽な態度は絶対に取れません。たとえパンドラの箱の底に残されていたものが「希望」だったとしても。

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葉桜の季節に君を想うということ

葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫 う 20-1) 

著者:歌野 晶午

刊行:2003年3月

評点:★★★★★★★☆☆☆ 7点

ストーリー:元探偵の成瀬将虎は「何でもやってやろう屋」を自称して、気の向くままに仕事やバイトをこなし、自由気ままに生きていた。ある日将虎は、同じフィットネスクラブに通う愛子から悪徳霊感商法会社を調査してほしいと頼まれる。おじいさんが轢逃げに見せかけて保険金目当てに殺されたという。同じ頃、将虎は地下鉄の駅で自殺しようとした女を助ける。麻宮さくらと名乗るその女性が気になりだした将虎。心と心が通いあう運命の人なのかも知れない。やがて将虎は悪徳会社へ忍び込み、決定的な「証拠」を見付ける。その「証拠」の内容を目にした時、津波のような衝撃が将虎を呑み込んだ。

感想:完全に騙されました。真相が明らかになった時、前半ページの至る所に戻ってチェックしました。確かに作者は「私が想像していたようなこと」は、書いていません。私が勝手に「こういうことだろう」とイメージしていただけでした。でも、私以外の人も100%勘違いすると想います。まさか登場人物達がことごとく○○○○だったなんて。

物語の構成も良く出来ていると思う。一見関係の無い出来事が最後に繋がっていったとき、「なるほど」と思った。「そういう前振りだったのか」と。後半、登場人物達が○○○○だったということがすぐに理解できず、一瞬何がどうなっているのか解らずに混乱したけど、しばらく頭の中で整理した後思わず「やるなぁ」と感心してしまった。

主人公の将虎はいいキャラだったけど、真相が明らかになった時、さらに魅力的なキャラになった。「実現可能か不可能かは、やってみてはじめてわかることだ。頭で考えただけで結論を出してしまうやつは、結局その程度の人間でしかない」。「自分の可能性を信じる人間だけが、その可能性を現実化できる資格を持つ」。一見ありきたりな言葉だけれど、将虎の正体が明らかになったとき、これらの言葉は全く別のメッセージになる。

物語の結末がこれほど意外な作品って、なかなか無いんじゃないかな。読み終わったあとでは本のタイトルですら「そういうことか」と思えてくるのだから。

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