氷壁
著者:井上 靖
刊行:1957年10月
評点:★★★★☆☆☆☆☆☆ 4点
ストーリー:魚津と小坂は冬山の難所である穂高の東壁に挑んでいた。過酷な条件の下、あと少しで登頂というところで小坂のザイルが切れ、墜死してしまう。「切れるはずのないザイルが何故切れたのか」、様々な憶測が流れる。「自殺だった」「魚津がザイルを切った」「ザイルの性能」。小坂の死の原因を「ザイルの性能」と信じる魚津は、そのことを証明しようとするが、実験ではザイルは切れなかった。小坂は生前、人妻である八代美那子に思いを寄せていた。その恋が叶わなかったことを知る魚津は、自分も美那子に心引かれていくことを自ら戒める。美那子への思いを断ち切るため、魚津は一人、再び危険な山へ登っていく。
感想:私はこの作品を「ミステリー小説」として読み始めたが、ミステリー小説としての評点は「3」くらいだと思う。時々、犯人や真相が明らかにならないまま終わるミステリー作品があるが、それでも納得できるものと納得できないものがあるのは不思議だ。そしてこの作品は「納得できないほう」に入ってしまった。この作品をミステリー小説でないと考えればまた違った評価になると思うけど・・・。
それでも評点が「4」だったのは、雪山に挑む描写が臨場感に溢れていたから。吹雪の中テントで過ごしたり、冬の絶壁を登って行ったりする描写が、正に「死」という危険と隣りあわせで描かれている。それに挑む男達の理屈ではないチャレンジスピリットも。「なぜ危険な冬山に登るのか」という質問に、彼らは明確な答えを返せないだろうが、そんな質問自体が彼らにとって「愚問である」ことが、なんとなく理解できる。誰にでも少しは冒険に対する憧れは本能として備わっている訳で、それがあるから人類はあらゆる方面で進歩を遂げてきたといえる。山に登る男達は、その冒険心が強すぎる人種なのだ。そんな山男達の山に対する想いと、人妻に対する叶わぬ想いが、この作品では描かれている。今よりももっと恋愛に対してピュアだったであろう当時の読者には、今の私とは違った感覚で、一人で雪山に挑んでいった魚津をみることが出来たのではないか。
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