VOICE
著者:市川 拓司
刊行:2002年1月
評点:★★★★★★★☆☆☆ 7点
ストーリー:高校生の井上悟は、周りに馴染めないながらも平凡な高校生活を送っていた。ある日の授業中、突然悟に同級生 五十嵐裕子の心の声が聞こえてきた。その後、森の中で偶然出会った二人は互いに惹かれあい、二人だけの世界を築いていく。やがて春になり、受験に失敗した悟を残して、裕子は東京の大学に通いだす。離れて暮らす悟の心には、時々裕子の声が聞こえてくるが、二人だけの世界からだんだん悟の知らない世界を広げていく裕子の声に、悟は苦しむようになってしまう。やがて二人は別れ、裕子は誰も知らない所へと姿を消してしまった。数年後、突然悟の心に裕子の声が聞こえてきた。それは、正に今、穏やかに人生を終えようとする裕子の声だった。悟の事を思いながら。「幸せだった」と思いながら・・・
感想:相手に対する劣等感から別れてしまう男女って、どれ位いるのだろう。東京の大学に通ってからも、裕子は悟の事が好きだった。悟以上に魅力的な男性に囲まれても、二人だけの世界から悟の知らない世界へ、裕子の住む世界が広がっても。裕子の心の声が聞こえる悟には、そのことが解っていたはずだ。それでも劣等感は消えない。好きな人はどんどん成長していくのに、自分だけが変わらず同じ場所でじっとしている。彼女が新しい世界で出会う男性は、自分よりも遥かに魅力的な男。そんな劣等感から、好きな人と一緒に居ることが辛くなるという感覚。私も劣等感から別れを選んだ経験があるだけに、その気持ちは解る。きっとこんな気持ちは、自分の事が好きだったり自分に自信のある人には解らない感覚だと思う。
悟の知らないところで死にゆこうとしている裕子は、幸せだったのだろうか。悟を思い出す彼女は、とても穏やかに描かれている。その穏やかさが、余計に悲しく感じる。そして、最後に思い出の競技場で裕子の落書きを見付けた悟は、何を思っているのだろう。
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