博士の愛した数式
著者:小川 洋子
刊行:2003年7月
評点:★★★★★★☆☆☆☆ 6点
ストーリー:「僕の記憶は80分しか持たない」。交通事故の後遺症で、正確に80分しか記憶を保つことができない数学者のところに派遣された家政婦。博士にとって家政婦は、何度訪問しても「新しい家政婦」だった。博士は数字をとても愛していた。あらゆることを数字で表現した。人と人の関係さえも数字に置き換え、運命的な繋がりを導き出した。家政婦には10歳になる息子がいた。数字と同じくらい、博士は子供を愛した。博士は家政婦の息子を「√」と呼んだ。全ての数字を受け入れ、庇護する記号だ。博士と家政婦と√の三人は、多くの時間を一緒に過ごした。でも、博士の記憶は80分しか持たないのだった。その時に心が通ったと感じても。
感想:数字や数式が、とても文学的に表現されていた。この小説を読んでいると、「素数」がとても美しいものに思えてくる。全てを数字で表現しようとすると、普通は論理的かつ理性的になってしまうものなのに、何故かこの小説は数字がやさしく人と人を運命的に繋げているように感じさせる。この博士のように数学を教えることができたなら、世の中の子供達はもっと算数が好きになるだろう。私は文系なのであまり数学は得意ではないが、数学に対するイメージが変わった。
『神は存在する。なぜなら数学が無矛盾だから。そして悪魔も存在する。なぜならそれを証明することは出来ないから』。とても良い言葉だと思う。数学は無矛盾なもの、完璧なものとしながら、それでも世の中にはそれだけでは解決しないものがあると認めている。どんなに科学が発達しても人間は神にはなれないという戒めにも聞こえる。
この手の小説では、奇跡が起きることが良くある。大きい奇跡だったり小さい奇跡だったりの違いはあるけれど。この作品でもそんな奇跡が起きるのかなと思いながら読んでいたが、最後まで奇跡は何一つ起きなかった。博士は博士のままだった。読み終えてほっとした。安っぽいSF小説にならなくて良かったと思ったからだ。物語の最後はとても静かだった。とても女性らしい優しさを感じる終わり方だったと思う。
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