五十嵐 貴久

交渉人

交渉人 (幻冬舎文庫) 

著者:五十嵐 貴久

刊行:2003年1月

評価:★★★★★☆☆☆☆☆ 5点

ストーリー:深夜のコンビニで発生した強盗事件。犯人の3人は逃走の過程で病院に逃げ込み、病院関係者や患者達を人質に立て篭もった。犯人との交渉に当たるのは、警視庁警備部の石田警視正。プロの「交渉人」としてこれまで数々の事件を解決してきたエリートだ。石田は世間話を織り交ぜ、犯人達を思い通りに誘導していく。だが、全てが石田の計算通りに進み事件解決も間近と思われた時、事態は意外な方向に進みだした。

感想:物語の冒頭は凄く引き込まれた。石田警視正の元部下、遠野麻衣子が石田に代わって現場の指揮を取っていた辺りだ。警察組織のヒエラルキーという縦糸だけでなく、男が絶対的中心組織の中で女性が現場を仕切ることへの反発という横糸が絡んで、すごくワクワクした。でも、それは本書のテーマでは無かったため、この縦糸と横糸はすぐに解けてしまった。とても魅力的な展開に感じられたために、残念だった。

最初に期待し過ぎたからかも知れない。その後は淡々と読み進めてしまった。真犯人や犯行の真の目的なんかも、「大」が付くほどの「ドンデンガエシ」でもなかったし。

でも、犯人達が犯行に至った「無念さ」は解る。私は犯人たちが味わった「理不尽」を自ら体験した訳ではないので、「無念さが解る」といっても本当に理解できていないだろうが、恐らく私が犯人達の立場だったら同じように復讐を考えたと思う。正規のルートで裁けないのなら、自らの手で裁きを下すだろう。社会正義に反するとしても、それは私にとって正義だからだ。

物語の最後に、麻衣子は正義を説く。確かに素晴らしい正義だ。でも、あまりに理想論過ぎる。そんな理想論をいくら掲げても、私は世の中は変らないと思う。犯人達は自らの復讐のためだけに犯行を計画したが、そうでなくても、仮に世の中を変えるために何かをしようとすれば、例え社会正義に反しても、世の中の注目を喚起させるインパクトを与えなければならない。それで物事が良い方向に向かうのであれば、それは必要悪なのではないか。いくら理想だけを叫び続けても、きっと弱者の遠吠えくらいにしか認知してもらえない。世界はそうやって周っている。

こんな私の考えは、きっと「テロ」に通じてしまうものだろう。ただ、私は無関係な人々を巻き込むような手段は容認しない。と同時に法で相手を裁けない以上、私的な復讐は世の中から無くならないと思う。世界はもっと「復讐」を起こしてしまう人達の言い分にも耳を傾けるべきだ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

1985年の奇跡

1985年の奇跡 (双葉文庫) 

著者:五十嵐 貴久

刊行:2003年7月

評点:★★★★★★★☆☆☆ 7点

ストーリー:独裁的な校長の下で徹底した管理化が進んだ都立小金井公園高校。進学率の向上を旗印にして成績順位別のクラス編成が行われるわ、クラブ活動はどんどん縮小されるわ、ダメ生徒は何かきっかけを探しては退学させられるわ。小型の辞典のように分厚い校則に窮屈な思いをしながら、野球部の面々はテキトーな毎日を送っていた。勉強もテキトー、練習もテキトー。唯一熱くなるのは、おニャン子クラブの「誰派か」ってことだけ。そんなある日、転校生がやってきた。容姿端麗、文武両道、才能抜群の転校生をエースに向かえ、都立小金井公園高校野球部は夏の予選において創部以来の初勝利を上げ、エースの力だけで勝ち進んでいく。「ホントに甲子園に行けるかも!」と誰もが淡い期待を抱き始めたとき、対戦相手の応援団のヤジにエースは顔色を無くして小刻みに震えだした。

感想:1985年に青春時代を過ごしていない人は、この作品にどんな評価をするだろう。私は1985年に青春時代を過ごした一人。おニャン子の「誰派」論争は、わたしが所属していたサッカー部でもこれ以上無いほどの重要事項として熱い議論が交わされていた。おニャン子以外にも所々に登場する1985年当時を彩る出来事や人物。懐かしさで少し評点が上ってしまった。

基本的にはありふれたストーリーの青春小説だ。普通の高校生が何かを切っ掛けに目標を見付け、努力し、挫折し、立ち直り、そしてまた立ち向かう。そこに淡い恋愛が少しトッピングされている。青春小説の王道だ。でも、もしおニャン子ネタが無かったとしても私はこの作品に感動していただろう。

後半部分、校長先生と対峙する野球部の面々。正に若さ故の打算の無さ。「腹が立つ」という思いで引っ込みがつかず、勢いで理不尽なものに対抗する。それに感化されて一緒に反抗する仲間達にも打算と言うものが無い。先のことなど考えず、今の気持ちだけで行動する。私も若い頃はこうだったと思う。でも何時しか、怒りたいとき、意見したい時にその時の気持ちだけで行動できなくなってしまった。大人になったってことだろうけど、作品中の彼らは素敵に感じた。

因縁の対決に向かう場面での周りの盛り上がり。正に青春。大人になってしまうと、あんな風に一つの方向に向かって皆が一致団結して異常に盛り上がるなんてなかなか無い。懐かしいし、うらやましい。そう感じるだけでなく、ああいう気持ちを何時までも持ち続けていたいと思う。

この作品ではエピローグも効いている。大人になった野球部の面々。普通の大人だ。そんな普通の大人になった彼らにも、青春時代において確かに主役になったことがあった。そして現実の普通の大人たちも、程度の差こそあれ皆そんな青春時代の経験を持って、普通の毎日を送っているのだ。時々思い出しながら。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

その他のカテゴリー

さだ まさし | むよーのよー(意味の無い独り言) | サンプラザ中野 | ヒキタクニオ | 三崎 亜記 | 三浦 綾子 | 三田 誠広 | 三羽 省吾 | 中場 利一 | 乃南 アサ | 五十嵐 貴久 | 井上 靖 | 井岡 瞬 | 今野 敏 | 伊坂 幸太郎 | 伊集院 静 | 佐藤 多佳子 | 光原 百合 | 劇団ひとり | 加納 朋子 | 原 宏一 | 古処 誠二 | 司馬 遼太郎 | 吉村 達也 | 垣根 涼介 | 夏目 漱石 | 多島 斗志之 | 大石 圭 | 天童 荒太 | 太宰 治 | 奥田 英朗 | 宮本 輝 | 宮部 みゆき | 小川 洋子 | 小杉 健治 | 山田 悠介 | 川上 健一 | 川端 康成 | 市川 拓司 | 帚木 蓬生 | 志水 辰夫 | 恩田 陸 | 是枝 裕和 | 朝倉 卓弥 | 木堂 椎 | 本多 孝好 | 村上 春樹 | 東 直己 | 東野 圭吾 | 松本 清張 | 桐野 夏生 | 桜井 亜美 | 森 絵都 | 森見 登美彦 | 横山 秀夫 | 歌野 晶午 | 池永 陽 | 沢木 耕太郎 | 浅田 次郎 | 湯本 香樹実 | 瀬尾 まいこ | 灰谷 健次郎 | 田村 裕 | 白川 道 | 白石 一文 | 盛田 隆二 | 真保 裕一 | 石田 衣良 | 福井 春敏 | 笹生 陽子 | 綿矢 りさ | 荻原 浩 | 西田 征史 | 豊島 ミホ | 赤井 三尋 | 遠藤 周作 | 重松 清 | 野沢 尚 | 鈴木 貴之 | 関口 尚 | 雫井 脩介 | 高野 和明