本多 孝好

真夜中の五分前

真夜中の五分前 side-A (1) (新潮文庫 ほ 18-1) 

著者:本多 孝好

刊行:2004年10月

評点:★★★★★★★☆☆☆ 7点

ストーリー:大学時代の恋人はいつも時計を5分遅らせていた。6年前、突然その恋人を事故で失ってから、僕の時間は5分ずれたままなのかも知れない。そんな僕は、かすみという女性と知り合った。彼女は一卵性双生児。妹の名はさゆりと言った。僕はかすみから決して誰にも語ることのできない胸に秘めた恋を聞かされた。絶望的な恋愛に苦しむかすみ。かすみは僕のこころにある何かを大きく崩し、そこから現れたものに僕は愛という名前を付けた。

そして2年後、ひとりの男が僕を訪ねてきた。さゆりの夫であるその男を目の前にすると、僕はかすみやさゆりを思い出さない訳にはいかなかった。だから二度と彼には会うまいと決めていた。だが、僕の前に現れた男は、彼が抱いた信じられない疑念を口にした。「考え過ぎですよ」と僕は答えた。それから僕の耳元で悪魔が囁くようになった。かすみは本当にお前を愛していた?だいたい、愛って何だ?

感想:この本を2冊に分けたのは、多分マーケティング的な戦略からではないだろうか。1冊にまとめても厚さ的には全く違和感がないはずだ。「上」「下」ではなく「side-A」「side-B」としているところにもマーケティングの匂いを感じる。そしてそれは成功している。

side-A」を読み終えたとき、あまり共感できなかった。なんと言うか温度を感じなかった。あまりにも都会っぽくスマート過ぎるというか、愛というものを冷めた目で見過ぎていて、そして「そのことにも私は気付いてますよ」って感じの主人公。そのまま終ってもまぁ作品としては成立しそうな気がするけど、普通の出来という感じだった。そして「side-B」。前半で既に引き込まれてしまった。恋愛ではなくミステリーとしてだけれど。「今目の前にいるのはかおりなのか、さゆりなのか?」。「side-A」は前フリだったのだ。読んでみて確かに「上」「下」よりも「side-A」「side-B」のほうがしっくり来る。

ミステリー的な部分に惹かれはしたけれど、この作品で語られる「愛」についても考えさせられる。愛って何なのだろう?目の前に居る人が、恋人と同じ記憶と同じ遺伝子を持つ別人だったとして、その人を恋人と同じように愛することに何の問題があるのか? そこにあるものを「愛」と認識するにはまだ若すぎた時に、主人公は恋人を失った。「愛」と認識出来ていなかったからだろうか、主人公はそれを悲しむことが出来なかった。そのことが主人公に「愛」を解らなくさせてしまった。そんな主人公の前に現れた一卵性双生児との「愛」とその後の出来事は、主人公をただ混乱させたのではなかったか。主人公がクールなだけに、その寂しさが伝わってくる気がした。偉そうに「愛」を語る資格なんて私にはないけど、そう思った。

物語の後半、昔の恋人の墓参りをするシーン。私はこの場面が一番印象に残った。「なあ、今の君に今の僕はどんな風に見える?」。主人公に込み上げてくる衝動。ただ泣き続ける主人公。主人公が恋人をかつて愛していたことを自覚した瞬間だ。このときの主人公はクールじゃなかった。そしてその後の主人公は少し変った。そんな主人公を私は好きになった。

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ALONE TOGETHER

ALONE TOGETHER (双葉文庫) 

著者:本多 孝好

刊行:2000年9月

評点:★★★★★☆☆☆☆☆ 5点

ストーリー:自ら「呪い」と呼び使うことを避けてきた不思議な力。他人の波長と自分の波長を共鳴させることで人の心を裸にすることができる柳瀬は、その力ゆえに他人と深く関わることなく生きてきた。彼の父親も彼と同じ力を持ち、その力が元で妻を、柳瀬の母を殺し、自らも命を断っていたのだった。ある日、柳瀬はかつて中退した医大の教授から手紙を受け取る。教授は柳瀬に「ある女性を守って欲しい」と告げる。その女性とは以前教授が「殺した」女性の14歳の娘だった。

感想:最初、ミステリーにちょっとしたSF要素が入っているのかと思った。正直そのSF部分が邪魔だなと思ってしまった。でも、この作品はミステリーではなくSF小説なのだと思い直した時点で、あまり違和感無く読むことができた。

この小説を読み終えて「偽善」という言葉が思い浮かんだ。誰かに何かをしてあげる時、本当にそれは本心から出た行動なのか。見返りを求めたり打算が働いたりしていないのか。誰かの不幸を悲しむ時、本当にその人のことを思って悲しんでいるのか。その人を失うことによる自分の喪失感に悲しんでいるだけではないのか、あるいは世間に対する義務感から悲しんでいるのではないか。自分の行動の源泉は、本当に自分が考える信念から出たものなのか。あるいはその信念自体がトラウマや言い訳がゆがんだ形で現れたものではないのか。

「呪い」によって自分の心の奥を裸にされたとき、人は救われるのだろうか。誤解を恐れずに言えば、どんな人のいかなる言動にも、「偽善」的部分は多かれ少なかれ含まれていると思う。開き直れば、それが人間というものではないだろうか。それを相手に問い詰めたとして、そこに何が残るというのだろう。とても救われるとは思えない。この小説では、人間の「偽善」的部分を鋭く描写している。少々ひねくれた理論で心を裸にしていると感じるところもあったけど、ウラがあるのが人間なのだ、それが普通なのだと言われている気がした。ただ、みんなが「ウラがあるのが人間だ。それのどこが悪い。ウラをオモテにして生きて何がいけないんだ」と開き直ったら、きっと世の中は間違った方に向かって行くだろう。

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FINE DAYS

FINE DAYS (祥伝社文庫) 

著者:本多 孝好

刊行:2003年3月

評点:★★★★★★☆☆☆☆ 6点

ストーリー:恋愛小説の短編集。

「FINE DAYS」。髪の綺麗な、不思議な魅力を持った一つ年下の女子高生に抱いた昔の恋の思い出。

「イエスタデイズ」。死期の迫った父に頼まれて、父の昔の恋人を探す青年。

「眠りのための暖かな場所」。幼い頃起こった事件がトラウマとなり、心を閉ざしたまま成長した女性が出会った、陰のある大学生。

「シェード」。バツイチの彼女との微妙な気持ちのすれ違いに戸惑いながら、不思議な昔話に勇気付けられ、彼女の部屋へ向かうサラリーマン。

打ち明けることなく終わった恋、遠い昔に捨ててしまった恋、初めて心を開くことが出来た悲しい恋、今とこれからを大切にしようとする恋・・・。

感想:いろんな恋愛が書かれているけど、それぞれ良い味が出ていた。

最初の話、高校生の時に出会った同じ学校の女の子を思い出す話では、自分の高校時代を思い出した。誰でも1つや2つは学生時代の恋の思い出は持っていると思うけど、その恋の殆どは自分が成長するにつれ終わってしまっているのではないか?それは自分が未熟だったかもしれないし、本当は恋ではないものを勘違いしていたのかもしれない。ぼんやりとした記憶しか残っていなくても、確かにそういう気持ちがあったという事は覚えていて、時々懐かしく思い出したりする。

2つ目の話では、別れてからの別々の人生を送った男女の物語が、ジーンと来た。結局二人は再会しないけれど、会わない選択をした事が別れてからもお互い一生懸命生きてきたことの証になっている気がした。

3つ目の話は、多分二人に幸せな最後はやってこないだろう。でも、それを解っていても初めて互いに心を開ける相手に出会ったことを大切にしようとするだろう。

4つ目の話は、昔話をするおばあさんが良い味を出している。この二人のこれからには、きっと幸せな未来があるだろうと予感させる。

私としては、1つ目の物語が一番良かった。特に最後の一行が。

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