三羽 省吾

厭世フレーバー

厭世フレーバー

著者:三羽 省吾

刊行:2005年8月

評価:★★★★★★☆☆☆☆ 6点

ストーリー:リストラ同然で会社を辞め家でゴロゴロしていた父が突然失踪した。14歳の次男は陸上部を辞め、高校にも行かないと言い出す。17歳の長女は夜遊びを覚え毎日深夜に帰宅するようになった。27歳の長男は突然家長面しだしたが、自身も失業中で家計のために日雇肉体労働していることを言い出せない。42歳の母親は家事を放棄してキッチンドランカーになった。73歳の祖父はボケが進行して飯ばっかり食べている。残された5人。バラバラの5人。それぞれがそれぞれにムカツキ、それを言い出さないで、それぞれの思いを抱いていた。

感想:まるでバラバラの家族。でもこの作品の家族は、「父親の失踪によってバラバラになった」という単純なものではありません。きっかけはそうかも知れませんがすごく関係が複雑。そしてその複雑さを全て理解しているもの、中途半端に理解しているもの、まるで知らずに暮らしているもの、と、ここでもバラバラ。読み進めれば進めるほど、その複雑さが明らかになって飽きさせません。

この父親、最後まで登場しませんが、家族の回想から判断するとかなり破天荒な父親のようです。そして家族から愛されてもいたようです。なぜ失踪しちゃったのでしょうか? 父親が登場しないため明らかになりませんが、すごく気になります。単なる無責任な父親というならそれで良いのですが、それにしては家族の思い出の中の父親はイキイキしすぎています。そもそも家族を捨てた父親に対して、なぜ誰も憎しみや失望を抱かないのでしょうか?

複雑な家族。って言うか、家族ってもともと複雑なのかも知れません。結局「赤」は付きませんけど「他人」の集まりですから、相手が何を考えているのかなんて100%理解するのは不可能です。本作でも5人それぞれの視点から父親失踪後の家族が語られていますが、各々思っていることや言いたいことは違います。そのズレがまた面白いのですが、父親が失踪していなくても、成り立ちが複雑じゃなくても、いくら一緒に住む家族と言っても、やっぱりみんな少しずつズレてて当たり前なんですね。それでもやっぱりつながっている「家族」ってなんなのでしょうか?

父親の失踪という大事件が起こってバラバラになってしまった家族ですが、特に何かの切っ掛けも無く、誰かが何かを訴える訳でもなく、最後には何となくまとまりかけています。この「何となくまとまってしまう」ところが家族なのでしょうか。自分も振り返ると、友達にされたなら絶対に絶交するようなことを家族にされたとしても、何となく許してしまってますしね。

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太陽がイッパイいっぱい

太陽がイッパイいっぱい 

著者:三羽 省吾

刊行:2002年11月

評点:★★★★★☆☆☆☆☆ 5点

ストーリー:工事現場の解体バイトに大学生活には無いリアリティを感じたイズミ。彼が大学を休学して働く「マルショウ解体」には個性的な面々が集まっていた。それぞれに色んな物を背負いながら、日々起こる色んなトラブルにバタバタしながら、それでも単純に楽しく働こうとする彼らに混じって、イズミは居心地の良さを感じている。でも、ある日そこは本当に自分が居るべき場所ではないことに気付き戸惑う。不器用な仲間に励まされ、トラブルに巻き込まれながら、そこにあると思っていたリアルが実はリアルではなく、それは自分よりも熱い者達だけが感じることができるものだと気付くのだった。

感想:大阪を舞台にした青春小説。ところどころに関西人特有の「生活に溶け込んだ笑い」が散りばめられている。この小説を読んで自分の大学時代を思い返しても、確かに将来については良く考えていなかった。今にして思えば、「面倒臭い」といういかにもその場しのぎの理由で考えることを拒否していた。自分の周りもそうだと思っていたけど、きっと中には将来について真剣に考えているヤツもいただろう。主人公のイズミも、まだ答えは見付けていないけれど、考え始めるきっかけは手に入れたのではないだろうか。そのきっかけを与えてくれたのが、何も考えてなさそうなハチャメチャな解体屋の面々だというのが、人生の奥深いところかも。結局、人生に対する悩みや不安や迷いに対する答えなんて無いし、誰も教えてくれないということ。大学時代にこの作品に出会っていれば、私も将来について答えの無い考えをめぐらすきっかけになったかも。ただ、青春小説というからには、読み終わった後の爽やかさがもう一声欲しかった。

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