横山 秀夫

クライマーズ・ハイ

クライマーズ・ハイ (文春文庫) 

著者:横山 秀夫

刊行:2003年8月

評点:★★★★★★★★☆☆ 8点

ストーリー:1985年8月、日航ジャンボ機が群馬県御巣鷹山に墜落した。乗客・乗員520名という航空機事故史上最大の惨事。地元の地方紙「北関東新聞」に勤める悠木は全権デスクとして日航機事故を担当することになった。喧騒の坩堝と化した社内。過去の栄光「大久保連赤」にしがみつく幹部。編集局と広告局、販売局との対立。社長派と専務派の陰湿な工作。翻弄される悠木は部下からの信頼までも失ってしまう。孤独を感じる悠木。それは家庭においても同じであった。人知れず苦悩する悠木は一つの投書に出会った。真のジャーナリズムとは何なのか。新聞は何のために存在しているのか。地方紙の役割とは? 職を賭して、悠木はこの問いに向かい合うことを決意した。

感想:横山さんの作品の中でも、本作は非常に評価の高い作品。自分で読んでみて納得した。とても横山さんらしく、そして引き込まれる。元新聞記者だった横山さん。それだけに凄くリアルだ。新聞社内の細かな描写だけでなく、実際に起こった事件や事故、実名で登場する政治家。これらが絡み合ってフィクションだということを忘れさせてしまう。

やはり横山さんは組織の中で苦闘する人物を描くのが一番得意なのだろうと改めて思う。飛行機墜落というセンセーショナルな素材を中心に構成されているが、本作のテーマは人生とか生き様とか人の絆とか、文学の本質的なものだ。組織を通してこのテーマを語るとき、横山さんならではの才能を感じる。

主人公の悠木は、一見仕事に対する責任感とプライドを持って組織の中でもがいているように見える。だが結果を全てとするのなら、正直優秀ではないかも知れない。上司に楯突くのはカッコいい。でも結局抗いきれない。下の者の熱意を実現してやることができない。スクープもギリギリの判断で逃してしまう。全て悠木ではどうしようもない力が働いたとは言え、全て結果が伴っていない。だが、組織の中で働く人間なら悠木の心が少しは解る。あきらめて惰性で生きていくのか、辞めるのか。悠木は最後まで下りなかった。逃げなかった。そのことが悠木のその後の人生を大きく変えたことは間違いないだろう。

「下りずに過ごす人生だって捨てたものではないと思う」。「クライマーズ・ハイ。一心に上を見上げ、脇目も振らずにただひたすら登り続ける。そんな一生を送れたらいいと思うようになった」。ジャーナリズムの本質を見出した悠木は、日航墜落以後、充実した人生を送ったのではないか。たとえ世間から見れば閑職だったとしても。それは悠木が下りなかったからだ。これまで私は何度か下りた。それが間違いだとか正解だとか今は言えない。ただ、次は下りないでおこうと思う。そして振り返ったときに「最後に下りないで良かった」と言えるようになりたい。

クライマーズ・ハイ

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影踏み

影踏み (祥伝社文庫 よ 5-1)

著者:横山 秀夫

刊行:2003年11月

評点:★★★★★☆☆☆☆☆ 5点

ストーリー:過去に傷を負う犯罪者を描いた連作短編集。

深夜住宅に忍び込み盗みを行う“ノビ師”真壁修一。かれの中には母の無理心中に巻き込まれて焼死した双子の弟、啓二の魂が同居している。出所したばかりの彼は、2年前自身が逮捕されるきっかけとなる「仕事」に入った家の妻にこだわっていた。妻が夫に抱く殺意を、あの時修一は確かに感じていた・・・。

修一の幼馴染の刑事が殺され、修一に容疑の目が向けられる。事件の鍵を握っているのは、あの2年前の「妻」・・・。

修一の恋人 久子が勤める保育園で、現金の盗難があった。修一のために疑われる久子。そして久子を心配する親友の玲子・・・。

修一の街でヤクザによる「泥棒狩り」が行われていた。的にされた修一は真相を探ろうとする。辿り着いたのは「ジゴロ」と呼ばれる謎の人物・・・。

「サンタクロースになってプレゼントを届けて欲しい」。かつて同じ房だった男に頼まれた。不幸な生い立ちに耐えながら1年に1度だけ、クリスマスの夜だけを楽しみに待つ少女。本当のサンタクロースは誰なのか・・・。

「泥棒狩り」にあった同業者が死んだ。死ぬ前に彼が残した単語をもとに、彼の生き別れた父親を探す修一。自分を捨てた父を彼は許していたのか、それとも・・・。

修一のことを諦めるため、見合いをする久子。だが、皮肉にもその相手もまた双子だった。真面目に働く弟とヤクザな兄。その兄の影が久子に忍び寄る・・・。

感想:一つ一つのストーリーは最後に「なるほど」と思わせるものがあった。でも、他の横山作品と比べると、ちょっと弱いような・・・。それに「一つの体に宿った二つの魂」っていうSF設定が余計な気がする。横山秀夫らしく無いっていうか・・・。

弟の魂が宿るきっかけとなった事件が主人公の人生を狂わせたり、同居する弟のために恋人を受け入れることができなかったり、主人公が引きずる「影」の全てのルーツがこの「弟の魂」にある訳で、そのため当然全てのストーリーに影響を与えている。が、無理に「同居する魂」にこだわったために、物語の展開が不自然になってしまってないか?逆に言うと、「同居する魂」っていう設定を活かしきれてないような気がした。

犯罪者を主人公とした横山秀夫の作品も珍しいと思う。その点では新鮮で面白かったし、警察側と犯罪者側を入れ替えて描いていても「さすが横山さん」と感じるところがあった。それだけに「弟」の存在が残念だったような・・・

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陰の季節

陰の季節 (文春文庫) 

著者:横山 秀夫

刊行:1998年10月

評点:★★★★★★☆☆☆☆ 6点

ストーリー:「管理部門」という警察の内部を舞台にした短編集。

「3年で天下り先を次の人間に明け渡す」ことを約束していたOBは、その日が近づいた時、突然その約束を反故にする。組織のメンツに懸けてOBを説得する人事担当者は、なぜOBがそのポストに執着するのか本当の理由に気付く・・・。

身内に『賞』を与え『罰』言い渡す監察課。「職員の不祥事を嗅ぎ付けることが仕事」と揶揄される部署に、タレコミの手紙が届く。書いたのは内部の人間か、外部の人間か。密かに内偵を進める監察官が辿り着いたのは、出世レースのラストチャンスに懸ける男の呻きだった・・・。

「似顔絵で犯人逮捕」のお手柄府警が、その翌日無断欠勤する。事故か事件に巻き込まれたのか。心配して行方を捜す先輩婦警。男中心組織の中の男によるロジックに気付いた時、失踪の真相が明らかになった・・・。

県議会との調整を図る秘書課の課長補佐は、次の議会である県議員が警察に対して「爆弾を落とす」という噂を耳にする。スキャンダルなのか不祥事なのか。課長補佐は保身のために必至で「爆弾」の中身を探るが、最後まで解らないまま議会の日を迎える。その爆弾が真に狙っていたのは誰なのか・・・。

感想:相変わらず横山秀夫の警察を舞台にした小説は一味違う。元新聞記者だから警察内部のことに詳しいのだろうが、「それにしても」と感じてしまう。

物語のキッカケは、いつも些細なことなのだ。少なくとも「警察外部」の人間にとっては。天下り先に居座ったり、警察の人間がスナックのママと出来ているという噂であったりして、誰かが死んだり、殺されたり、誘拐されたりというような大きな事件は何も起こっていない。でも、人の心の「闇」や「野心」や「策略」が、そんな大事件を背景にするよりも読者に迫ってくる。警察内の人間は、犯人とだけでなく内部の人間とも戦っているのだ。「出世レース」で勝ち抜くために。そう言う意味で、警察官と言っても野心に燃えるサラリーマンと変わらない。ただ、「警察」という一般の人たちにとって非日常の場所を舞台にすることで、物語を魅力的なものにしている。もう一つ、真相が明らかになる時に、単なる謎解きで終わらせていない。その物語毎に、「そうだったのか」という背景が用意されている。そこに何時も感心させられるのだ。

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真相

真相 (双葉文庫) 

著者:横山 秀夫

刊行:2003年6月

評点:★★★★★☆☆☆☆☆ 5点

ストーリー:事件の「真相」に迫る短編集。

息子を殺害した犯人が10年ぶりに逮捕された。犯人の供述により明らかになった事件の真相と息子の素顔とは・・・。

県庁を辞め、故郷の村長選に出馬した男。その男はどうしても村長選に当選しなければならなかった。ある計画を実行するために・・・。

リストラされた男が、金のために始めたアルバイトで睡眠障害に悩まされるようになる。眠れない夜の深夜の散歩で、男は殺人事件の容疑者を目撃する。男の供述により事件は解決するが、それは本当の解決ではなかった・・・。

「今までで一番嬉しかった時は、友達が死んだ時」。大学時代の忌まわしい思い出に囚われ続ける男達が再会を果たした時、新たに起こった悲劇・・・。

前科がばれる事に怯えながら暮らす夫婦。全てを受入れてくれた老人の庇護によって新しい生活を始めるが、そこは「自分達の家」ではなく「他人の家」だと気付く・・・。

事件の「その後」、その事件に関係した者達はどの様に思い、悩み、生きてきたのか。

感想:横山秀夫の作品でなければ、「評点:6点」だったかも知れない。でも、「横山秀夫」の他の作品を知っているだけに、それだけ読む前の期待も大きかったから・・・。

他の横山作品なら、長編小説でも短編集でも、読み終わった後にしばらく感動して何も考えられなくなる程だったのに、今回の作品はそれ程でもなかった。正直、ちょっとガッカリ。確かに、ところどころに「さすが横山さん」と思わせる部分はあったけど。第一話の、息子の本当の姿が事件の真相だったところとか、第二話の、主人公が疑心暗鬼でどんどん追い込まれて行くところとか。他の作家ならこれでも十分なんだろうけど、横山秀夫はこんなものじゃないはず。「第3の時効」、「出口のない海」、「半落ち」、どれも8点や9点は付けられる傑作だった。次に読む横山作品に期待。

第三の時効 (集英社文庫)

出口のない海 (講談社文庫)

出口のない海

半落ち (講談社文庫)

半落ち

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