奥田 英朗

ララピポ

ララピポ (幻冬舎文庫 お 13-2)

著者:奥田 英朗

刊行:2005年9月

評価:★★★★★★☆☆☆☆ 6点

ストーリー:格差社会の最底辺に埋もれる人達の日常を描いた連作短編集。

「WHAT A FOOL BELIEVES」 引き篭もりのフリーライター杉山博は32歳。欠陥マンションに暮らす杉山の真上の部屋では、遊び人風の男が日替わりで女を連れ込んでいた。杉山は盗聴器から聞こえてくる女の「アノの声」に夢中になっていく。

「GET UP,STAND UP」 風俗専門スカウトマン栗野健治。街で女の子に声をかけてはキャバクラやヘルスに送り込む。送り込んだ後も女の子のフォローは手を抜けない。部屋へ呼んで愚痴を聞いてバスタを作って足裏マッサージをしてHして・・・。

「LIGHT MY FIRE」 専業主婦の佐藤良枝は43歳にして目覚めた。切っ掛けはスカウトされて出演した熟女モノ企画AV。向かいのセレブ邸に届く郵便物を盗み見してオナニーしてAV撮影で乱れてマネージャーに無理やりまたがって。ゴミ屋敷と化した家の2階の秘密も、どうでもよくなってきた。

「GIMMIE SHELTER」 カラオケボックス店員 青柳光一は押しに弱くてNoと言えない。その性格が仇となって、光一がバイトする店はいつの間にか援交の館となってしまった。面と向かって文句を言えない光一のストレスは、近所の金持ちに嫌がらせの手紙を書いても癒されない。

「I SHALL BE RELEASED」 52歳の官能小説家 西郷寺敬次郎。街で客引きに声をかけられ戸惑っているうちに、いつの間にかカラオケボックスの一室で女子高生に手コキされていた。敬次郎はまた行くことを決めた。今度は金を用意して体に触れるのだ。そしてあのピンクの乳首を吸いまくるのだ。

「GOOD VIBRATIONS」 身長155cm体重90kgの玉木小百合は28歳。テープに吹き込まれた官能小説の原稿起こしが彼女の仕事だ。小百合のもう一つの顔。それはデブ専裏DVDの女優。男を部屋に誘い込んでは段ボールの穴から隠し撮りしたDVDをアングラな店へ売りに行く。マニアには小百合の体はたまらないらしい。今ではVIP扱いだ。

感想:それにしてもなんてちッチャな人間の集まりなんでしょうか。自分に自信がないくせにプライドだけは高い。自分より下の立場を見付けては安心する。自分に火の粉がかからないところからなら思い切り相手に嫌がらせできる。そして例外無くSEXに溺れている。そのSEXでさえ、負け組み。愛が無いどころじゃない。正にサルのオナニー。

とまぁ、客観的に彼等を見るとホントに情け無くなるけど、果てして自分は彼らと真逆の人間かと聞かれると少々自信が無い。「こんな奴らとは違います」とは言えるものの、それは「程度」の問題で、根っこの部分では同じなのでは・・・。

例えば隣の部屋から女の喘ぎ声が聞こえれば思わず壁に耳をあてるだろうし、むちゃくちゃムカつくけど逆らえない相手の時は匿名で「不幸の手紙」を書いちゃうかもしれないし、おっさんになって自分の周りが若い女とヤリまくってたら無性に損した気分になって「俺も!!」ってなっちゃうかもしれないし。そう考えると彼らと俺って紙一重なのかも。でもきっと、その紙一重が人間としてとても大切でものすごく大きなことなんだろう。と、思うことにしよう。

さすがに奥田さんはツイてない人や負け組みを描くのが上手い。その中でも本作の登場人物達のダメさぶりは際立っている。多分こんな奴らって現実の世界にもいるんだろうな。何も考えずにバカみたいに毎日を適当に面白可笑しく暮らしているカルすぎる奴らに対して、やり場の無い怒りみたいなものを溜め込みながら、毎日を悶々と送っているのでしょう。「自分のほうがよっぽどマシな人間なのに何故?」なんて考えながら。「なんで俺だけ」とか「どうしてあんな人が」とか「アイツよりはまだマシだ」とか、そんなネガティブな考えばっかりじゃ、何時までたってもそこから抜け出せないのでしょうね、きっと。

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サウスバウンド

サウスバウンド 上 (角川文庫 お 56-1) 

著者:奥田 英朗

刊行:2005年6月

評点:★★★★★★★☆☆☆ 7点

ストーリー:元過激派の父は国やスーツを着た人間が大嫌いだ。税金は払わないし、学校に行く必要も無いと言う。外に働きに出たことは無く、何時も騒動ばかり起こす。なぜ母はこんな父と結婚したのか? どうやら母も元過激派だったらしい。時代遅れの革命組織の内ゲバに巻き込まれた僕たち一家は東京を捨て、沖縄の西表島に移住した。西表の人達は皆やさしい。ただで色んなものをくれる。世話好きなのだ。西表の暮らしも悪くないと思い始めた頃、案の定父が騒動を引き起こした。リゾート開発会社に嬉々として立ち向かう父。どうして父はこういう姿が絵になってしまうのか。ぐうたらだった東京にいた頃の父を、無茶を言っては家族を困らせた父を、今の姿が帳消しにしてしまう。

感想:この父親は無茶苦茶だ。もし、自分の父親だったらと思うとぞっとする。でも他人事として眺めるこの父は興味深いしカッコいい。私も、自分に関係の無いところで起こる騒動を無責任に楽しむ野次馬の一人ってことだろう。

この父親の言い分だけを聞くと、いちいちもっともだ。金持ちは私腹を肥やすことしか考えないし、国は無理やりにでも言うことを聞かせようとするし、学校は体制に迎合するよう個人を埋没させるような教育しか行わない。理想を掲げ正義を叫ぶ人達からすれば許せないだろう。ただ、普通の活動家はそう言いつつ、資本主義国家の恩恵をどこかで享受している。道路、電気、ガスなどのインフラは誰が整備するのか。そしていくら共産主義などの理想を掲げても、結局その指導者は自分だけが得をしようとする。それは歴史が証明している。現実の現在の活動家も、時代遅れの弱い人間の集まりだと言えば言い過ぎだろうか。自分の正義だけが唯一正しいと信じ、あるいは信じているフリをし、世間に対して理想を叫び注目を浴びようとするが、組織に加わることで社会の中で自分の居場所を確保して安心し、いつの間にかその安心を得ることが目的となっていないか。

ただこの父親はそんな活動家と異なっている。国家から求められる義務を放棄するからには電気もガスも水道もないところで暮らそうとする。組織には属さずに自分の信念だけで戦う。息子に対して自分が100%正しい訳では無いと説く。国というものに対して、究極の「構わないから構うな!」という態度を貫いている。日本で暮らす限り、その考え方が非常識と言えるが、「だったらこれでどうだ」と言わんがばかりに最後には日本を出て行ってしまった(のかな?)。常識的な小市民である私にはこの父の行動に賛同することが出来ないが、世の中にこういう人が少しは居た方がいいかなとは思う。誰かが反対の声を上げないと、たとえ民主主義国家の日本であっても気付かないうちに北朝鮮のような国になってしまう。自分で行動を起こさないだけ、私はずるいとも思う。

この作品で描かれる西表島は、理想郷のようなところだった。現実逃避気味の最近の私は、西表島への移住を夢見てしまった。おそらく人間のあるべき姿がここにはある。残念ながら日本の全てが西表島並みに物質的な生活レベルを落とすことは不可能だろう。物質的な生活レベルと精神的な生活レベルは、必ず反比例するものなのだろうか? 二つが両立するところで暮らしたいと思うが、それは我がままかも知れない。どちらか選べと言われれば迷わず西表島の生活を選ぶが、臆病でずるくて小市民の私は今の生活を変えるのが怖い。いつかこの父親のように自由に生きてみたいと思う。

サウスバウンド スペシャル・エディション

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ウランバーナの森

ウランバーナの森 (講談社文庫) 

著者:奥田 英朗

刊行:1997年8月

評点:★★★★★☆☆☆☆☆ 5点

ストーリー:かつて世界中を熱狂させたロックスター ジョンは、妻ケイコ息子ジュニアと共に隠遁生活を送っていた。ある夏、軽井沢にあるケイコの実家の別荘で過ごしていたジョンは、ひどい便秘になってしまう。同時に悪夢に悩まされるようになった。全ての原因が便秘にあると考えたジョンは病院へ通い始めるが、その病院へと続く深い森の中で、次々に過去の亡霊と遭遇する。そしてその度にジョンは過去のトラウマから救われるのだった。でも、ジョンにはもう一つ気掛かりなことがあった。この森でいつかママと再会することになるのだろうか・・・

感想:読み終わってから解ったことだけれど、この小説は私の好きな作家の一人、奥田英朗のデビュー作。ここから奥田ワールドが始まったのかと思うと、「読む前に気付きたかった」と少々残念に感じた。読み始めは少し戸惑った。この作品がフィクションなのかノンフィクションなのか解らなくなったからだ。主人公の「ジョン」は、明確には書かれてないが明らかにあの「ジョン・レノン」だし、挿入された逸話も聞いたことのある出来事が多かったので、これはジョンの日本での生活を明らかにしようとした作品なのかと思ったのだ。途中で明らかにフィクションだと解ってからは、安心して読むことができた。

過去のトラウマに囚われ続けるジョン。そのジョンがトラウマから逃れられるきっかけとなったのは、日本の「お盆」という風習。実際、ジョン・レノンも日本で過ごした時、日本の様々な習慣や風習に感化されただろう。ジョン・レノンが日本の文化にインスパイアされて、それが彼の歌にも影響したかと思うと、日本人として嬉しく思う。

ジョン・レノンのことを知らなくても、この作品は楽しめると思う。私もそれほどビートルズに関して詳しい訳ではないけど、面白かった。人はそれぞれ見せかけの笑顔のウラに色んなトラウマを隠している。「のぞかれたくない胸の内。見ないふりしている真実」。普段は心の奥にしまっていても、ふとしたことで意識のなかに浮かんできては苦しめる。救われたい、逃れたいと思っても、叶わない。それはジョン程の偉大なスターでも同じこと。でも、ジョンは森に現れる亡霊たちに懺悔することで救われている。もしかしたら、日本の「お盆」も、そのためにあるのかも知れない。死んだ人に対してなら、素直になってもいいような気がする。

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真夜中のマーチ

真夜中のマーチ (集英社文庫) 

著者:奥田 英朗

刊行:2003年10月

評点:★★★★★★★☆☆☆ 7点

ストーリー:怪しい合コンパーティ運営会社を経営する横山健司は、パーティーに参加していたダメサラリーマン三田総一郎と知り合う。口だけの健司とドジな総一郎は、大胆にもヤクザの金をくすねようとするが、謎の美女に邪魔されて失敗。謎の美女 黒川千恵もヤクザの金を狙っていたのだ。しかも「くすねる」どころか10億円を「根こそぎ」奪う積りだった。千恵と健司と総一郎は、10億円を手に入れるため共闘することに。そして、3人とヤクザの他に腹黒い千恵の父親と中国マフィアも加わって、10億円の大争奪戦が始まった。最後に10億円を手にするのは一体誰か?

感想:「さすが奥田英朗」と思わせる作品。「ついてないヤツ」の「ついてなさ」が生き生きと書かれていた。めまぐるしく状況が変わって、ややこしい状況がさらにややこしくなっていくのだけれど、「次はどうなるんだ」って感じでどんどんはまっていってしまった。

個人的には三田総一郎「ミタゾウ」のキャラが気に入った。最初はただのエロエロダメサラリーマンなだけかと思ったけど、

3人の中で誰か友達を選べと言われたらミタゾウかな?でも本当にそばに居るとイライラするような気がする。最初、横山健司「ヨコケン」がそうだったように。始めはミタゾウを舎弟のように扱っていたヨコケンだけど、最後には確かに友情を感じていた。ミタゾウにとっても始めての友達だったんじゃないかな。性格も服の好みも音楽の趣味も全く違う二人なのに。わざとらしくなく、いつのまにか気が付くとそうなってたって感じの流れが、奥田さんは上手いなと思う。

黒川千恵「クロチェ」は、最初はマドンナのよう登場だったけど、途中はただのタカビーな女として表現されている。金だけを信じて男を見下すイヤーな女だ。でも、最後には「素直じゃないだけでまぁイイやつかも」となんと無く感じた。こんな風にキャラの設定が上手いから、奥田英朗の作品は読んでいて面白いのだろう。

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東京物語

東京物語 (集英社文庫) 

著者:奥田 英朗

刊行:2001年10月

評点:★★★★★★☆☆☆☆ 6点

ストーリー:名古屋に住む青年 田村久雄が東京に上京してからを描いた連作短編集。

1978年、久雄は「退屈な街を出て行きたい」という理由だけで、東京の予備校に通うために上京し、その日の内に自分の田舎者さ加減を感じる。

1979年春、大学1年生になり、演劇サークルに入部。毎日馬鹿騒ぎを続けるうちに出来た彼女。

1980年、父親の事業の関係で大学を中退。弱小広告代理店でガムシャラに働く久雄に降りかかった最悪な1日。

1981年、自分の仕事振りに自信を持ち、部下を叱責する立場になった久雄が「天狗の鼻」をへし折られた出来事。

1985年、上京した母にだまされて連れて行かれた、母の友達の娘とのお見合い。

1989年、仕事仲間の結婚前夜パーティーで、ふと「青春」や「人生」や「夢」について思いを馳せる仲間達。

感想:最後の解説にもある通り、恐らく奥田英朗の自伝的小説だろう。主人公の久雄と私の年齢は異なるが、話の至る所に出てくる歴史的な出来事や人物、流行、ヒット曲がすごく懐かしく感じた。

30歳を目前にした久雄が、「自分は何がしたいのか」「自分はこれからどこに向かうのか」「自分は結局18の頃と変わってないんじゃないか」と感じるところには、すごく共感が持てる。とは言うものの、18のままで居続けることは当然周りが許す筈も無く、また、やはり18のままの訳も無い。自分でも気付かないうちに自分は変わって行くのだ。昔からの仲間が集まって、一瞬タイムスリップしたような錯覚に陥ったとしても、昔のように馬鹿騒ぎをしたとしても、そこにいる仲間のある者は父親になり、ある者は夢を諦め、ある者は何者にも成り得ていない自分自身に不安とも不満とも言えない感情を持っていたりする。奥田英朗の場合、それが30歳だったということだろう。

でも奥田英朗は後に小説家として成功している。この小説を読む限り、30歳の時点で奥田英朗には小説家になるという夢も目標も無かったはずだ。結局、人生とは何がきっかけでどうなるか解らない人が殆どだというか。

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